ガソリン・ディーゼルを選べる5008を購入するにあたり、それぞれのメリット・デメリットを考慮すると毎日短距離しか乗らないヨメ氏はガソリン仕様を選ぶべきだったはず。それでもディーゼルを選んだのは、高トルクで燃費が良いディーゼルのキャラクターを一度は体験しておきたかったからです。
ただ、ディーゼルを選んだ以上避けては通れないことがいくつかあります。その多くは燃焼によって発生するNOxなどの有害物質の後処理デバイスの扱いです。ご存知のとおり、近年のディーゼル車はその対策として、排気ガスの一部を吸気側に戻して燃焼温度を下げるEGR (Exhaust Gas Recirculation)や、排気ガスを触媒で無害化するSCR (Selective Catalytic Reduction)などを用いて対処を行っています。そして、これらのシステムに関しては使用環境や経年劣化により不具合が発生するケースがあります。
Peugeotの場合、SCRの還元剤であるAdBlueに絡むトラブルがしばしば話題になります。購入時点でなんとなく把握していたものの、ついに今回『我が家の個体の現実』になってしまい・・・。今回の記事ではエラーの内容、ディーラー診断、整備内訳といった一次情報をもとに、全体像を整理していきます。
まずは結論:AdBlueタンク&インジェクター交換に

いきなり結論からいきましょう。我が家の個体も他の例と同じくAdBlueタンク交換に加えAdBlueインジェクターも交換という結果になりました。ある程度覚悟していたと言えど、いざこうなってしまうと、やっぱり打撃です・・・。2026年はサマータイヤ買い替えを予定していたので、色々と計画見直しを余儀なくされそう。。。
トラブルの内容と至るまで

故障発生は寒さがピークになる1月下旬。子の発熱による看病のためヨメ氏が仕事を在宅に切り替えたことで5008は1週間ほど稼働なし。その翌週に再び出社態勢に戻りいつも通り乗ったところ、エンジンチェックランプとAdBlueランプが点灯します。ただ、エンジンの動作や走行に支障が出る・異音振動などの症状は一切発生していません。
発生後、一度は警告灯が消えたので『たまたまか?』と思い様子を見ましたが、翌日再び点灯したため診断機を接続してエラーコードをチェック。その結果、次の2項目が検出されました。
- P20E8:Reductant pressure – pressure too low(AdBlue圧力が低い)
- P209F:Reductant tank heater control – performance problem(AdBlueタンクヒーター制御の性能不良)
この時点でAdBlueタンクに何らかの不具合が発生しているのは認識できたのですが、この原因は外気温がとても低かった中で一度も乗らなかったことでAdBlueが凍ってしまったのでは?と推察。そこで数日間、ヨメ氏とクルマを交換してある程度走り回ったら改善するかどうかを試してみました。
その結果、まとまって走行すると消灯するものの、時間が経つと再びエンジンチェックランプが点灯する状態が続きます。AdBlueランプはP209Fエラーが出ると点灯しますが、こちらはエンジンチェックランプと同時に点灯ではなく、エンジンチェックランプが点灯後しばらくしてから追従するような動作をしています。
AdBlueタンクとは何者か?

トラブル発生箇所は特定できたので、改めてAdBlueの特性とAdBlueタンクについて正しく理解します。
AdBlueは凍結・結晶化しやすい
SCRに用いられるAdBlueの中身は純水に高純度尿素を混ぜた尿素水で、比率はISO/JISで規定された水67.5%・尿素32.5%(重量比)です。これを排気ガスに噴射し、SCR触媒の働きでNOxを窒素と水に分解して無害化します。
ただし水が主成分で約-11℃で凍結するため、車両側には加温用ヒーターなどが装備されています。基本的に凍結しても解凍すれば元の状態に戻ります。
また、水分が先に蒸発するなどで尿素濃度が上がると、尿素が析出して白い結晶に変化します。これがインジェクターや配管などに堆積すると、詰まりや噴出不良などを引き起こします。そのため、AdBlueは不純物混入を避け、開封後も密閉して冷暗所で保管するなど、取扱いには注意が必要です。
AdBlueタンクの構造

さて、タンク自体の構造も把握しておきましょう。PSA系のAdBlueタンクは単に尿素水を貯める容器ではありません。多くの車種ではサプライモジュール(供給ユニット)がタンクと一体化されており、ここがAdBlue関連コンポーネントの心臓部になっています。
このモジュールには、次の機能がまとめて搭載されています。
- 供給ポンプ:AdBlueを吸い上げてインジェクターに送る
- 圧力制御/圧力センサー:吐出圧を監視し、異常を検知する
- タンク液量・温度センサー:残量警告や制御の基準となる情報を取得する
- 凍結対策ヒーター:低温で凍結しやすいAdBlueの溶解・保温をする
- 制御基板/電装部:ポンプ駆動や各センサー信号の処理
つまり、タンク周りのトラブルは液漏れだけでなく、ポンプやセンサー、ヒーター、電装パーツのどこかが原因で発生します。そしてこのユニットがタンクと一体化した設計のため、メーカーが想定する修理はタンクASSYが基本となります。
一体化には、部品点数の削減、凍結対策の最適化、配管短縮、漏れリスク低減といったメリットがあります。その一方で、故障箇所がごく一部であってもASSY交換になりやすく、結果として修理費が高額化するデメリットもあります。
故障の原因として考えられるもの

このAdBlueタンクに絡んだ不具合について、具体的にどのような原因があるかをリサーチしてみました。その結果、大まかには6つの原因が考えられます。
- 供給ポンプが必要な圧を作れない
- サプライモジュール内部でのAdBlue漏れ
- インジェクターの結晶詰まり・汚れ
- タンク液量センサーの結晶付着などによる誤検知
- ヒーター・ヒーター配線の不良
- ソフトウェアロジックの問題
供給ポンプの不調
このうち最も症例としてよく見かけるのが、供給ポンプ(=加圧系)の不調です。原因は、ポンプ劣化や内部弁・フィルターの詰まり、圧力センサー系の異常などで所定圧に達しない、あるいは圧を保持できないことが挙げられます。
このときの代表的なエラーコードがP20E8で、エンジンチェックランプ点灯+排気システム異常となった場合はまず疑うべきものですが、P20E8は他の要因のときも併せて出ることがあります。
インジェクターの詰まり
また、それに似たものとして(3)のインジェクターの結晶詰まり・汚れも挙げられます。これはAdBlueタンクの不具合ではなく、排気管側に装着されている噴射インジェクター(ドージングバルブ)の不具合です。噴射部に尿素結晶が溜まり、噴射量不良になることでSCR制御が崩れることがあります。
この際エラーコードP20E8が出されますが、状況によってはP20EE(SCR故障)が併発するケースもあるようです。タンクとインジェクターは別体部品のため、状態によっては清掃・交換で対処できる可能性があります。
ヒーターの故障
寒冷地ではヒーター系の故障によって加温機能が低下・停止し、AdBlue供給が不調になる事例もあります。エラーコードP209Fが出るため、比較的見極めがしやすいパターンと言えます。AdBlueは低温で凍結するため、寒冷条件では結晶詰まりが顕在化していなくてもポンプ動作不良の引き金となります。
エラーコードで要因分析は(ある程度)できるけど・・・
その他の要因として、タンク液量センサーの誤検知や制御ソフトウェア不具合により、残量があるのに残量警告が出るパターンもあります。ソフトウェアの不具合については後述します。
AdBlueタンクの不具合が発生した際、警告灯表示と同時に残り走行可能距離のカウントダウンが始まるパターンがあります。この条件が確定的に明示されている一次情報はありませんでしたが、海外情報では前述のエラーが間欠的ではなく常に発生し完全に動作不良を起こしていると判断された時にカウントダウンを開始する説が有力です。
このように、AdBlueタンク絡みの不具合要因分岐は多いのですが・・・実務上タンクとサプライモジュールが一体化(密閉化)されていることから、正規ディーラーではメーカー手順に沿ってタンクASSY交換が前提になりやすいという構図です。
ディーラーで点検実施→やっぱりタンク壊れてた

さて、要因の種類と事前に調べたエラーコードの両方を考えると、我が家の個体は典型的なAdBlueの結晶化による不良だけでなく、加温機能の不調によりAdBlueが凍結して戻らず吐出不良を引き起こしている可能性が高いと考えられます。ただし、残り走行可能距離表示は発動していないことから、完全な故障状態ではなく不調な状態であると考えるのが妥当かと。
それを裏付けるためには、汎用の診断機ではなくメーカー純正の診断機(DiagBox)を用いて各種のセンサー数値を確かめる必要があります。現状、DiagBox環境は保有していませんので、結局は購入ディーラーへ持ち込んでチェックしてもらうしか方法がありません。
そこでディーラーにチェックランプ点灯状態を伝え点検を依頼したところ、制御ソフトウェアの不具合の可能性も考えられるとのこと。どちらにせよ、入庫し点検を実施します。
1時間ほどで点検完了した結果、伝えられたのはポンプモジュールとインジェクター両方の不具合という一番深刻なトラブルというオチでした・・・。今回ディーラーから受領した整備内訳は以下のとおり。
| 品番 | 品名 | 個数 | 価格 |
|---|---|---|---|
| 【チェックランプ診断】 | |||
| 作業工賃 | 8,500 | ||
| 【AdBlueインジェクター漏れ】 | |||
| 9801187080 | INJECTOR | 1 | 17,400 |
| 9807279280 | SEAL | 1 | 1,100 |
| 1684449480 | (MUL)METAL CLIP | 1 | 1,100 |
| 作業工賃 | 8,500 | ||
| 【AdBlueポンプモジュール不良】 | |||
| 1682616280 | ESD UREA | 1 | 78,200 |
| 作業工賃 | 13,600 | ||
| 合計(税抜) | 128,400 | ||
と、いうことで全部交換という内容でした・・・。
ただしちょっとした光明があり、AdBlueタンク交換については部品代の80%をインポーターが負担(=自己負担20%)となり、上記合計額から62,560円補填された結果、支払総額が72,424円となりました。
なお、AdBlueタンクの国内在庫がないようで部品が届き次第の作業となりました。
SPECIAL COVERAGEとは何か?


整備明細に記載された値引(SPECIAL COVERAGE)とは何か・・・。正規ディーラーの説明では『故障が多いのでこのパーツのみメーカーが補填する』という簡単な説明だったのですが、実際はどうなのか。これについても深掘りしてみましょう。
EU域内では『顧客満足キャンペーン』と称して展開
あれこれ調べてみると、AdBlueタンクにまつわる不具合発生はヨーロッパ本国でも発生が多く、その対処に高額な修理費用が掛かることが問題視された結果、Stellantis側が『顧客満足キャンペーン』として一定条件での補償を行うことになったとのこと。具体的には、
- 2014年1月~2020年8月製造のEuro6ディーゼル・SCR搭載車が対象
- 消費者からAdBlueタンクにまつわる不具合に対し、修理が高額になると苦情が頻発する
- 2023年9月:イタリア当局が調査、Stellantisと補償措置で合意する
- 2024年(時期不明):イタリアとスペインの消費者団体からの警告を受け、欧州消費者団体がEU全域での調査を行う
- 2024年12月:EU委員会・CPCネットワークとの対話の結果、補償をEU/EEA全域に拡大するコミットメントを実施
- 2025年1月:Stellantisが29カ国で『顧客満足キャンペーン』として告知を開始、同時に返金・追加補償のオンライン申請プラットフォームを開設
というものです。これは設計上・製造上の瑕疵があり規則法令を遵守出来ない場合に販売車両全数に対し一律に対処を行うリコールとは異なり、あくまで不具合が発生して対処が必要となった場合にその費用を補償するものです。
顧客満足キャンペーンの詳細
EU側の説明では『保証要求を超える任意の補償』としており、製造時期・走行距離・車齢の対象条件に応じて部品代の一定割合+工賃補助を行う仕組みです。補償は新車からの経過年数と走行距離により割合が異なります。
- 5年未満かつ150,000km未満:部品代の100%を補償
- 5年以上8年未満:走行距離に応じて部品代の30~90%を補償(※210,000km上限)
- 工賃:1ケースあたり30ユーロの補助
- キャンペーン期間:2028年8月まで
またStellantisの発表では、遡り補填については対象車両で正規ネットワークで修理をしたユーザーはオンラインポータルで返金申請ができるようになっており、2回目以降の交換(=再発ケース)についてはEU委員会側の記載によると、条件つきで部品+工賃の100%を補填すると記載されています。ただし修理後24ヶ月または50,000km以内、正規修理の請求書が必要で中古車は除外されるという条件も付されています。
なお、EU委員会の発表にはソフトウェアがAdBlue残量を空であると誤認して表示していたことに対する処置としていますが、Stellantis側のリリースではその説明がありません。これについて海外フォーラムの情報をリサーチしてみると、ソフトウェアアップデートやAdBlueタンク交換など複数の修理に適用されているというものがありました。
日本国内の取扱い

ただし、この取扱いはEU/EEAの消費者保護当局との枠組みで実施されているもの。一方の日本では同制度を公開している一次情報は発見できませんでした。ただ、今回実際にSPECIAL COVEAGEとしてインポーター負担が実施されており、また私と同じようにメーカーが部品代を負担したというレポートも複数発見できたため、EUに近い対応がインポーターとディーラー内部が運用されている可能性が高いと見ています。
なお、ディーラーから適用条件についての詳しい説明はありませんでしたが、私の事例(経過年数6年・総走行距離44,000km)と80%補填は本国条件に合致するものと考えられることから、本国の顧客満足キャンペーンに準じた取扱いをしていると捉えるのが自然だと思います。
ただし、既に全額自腹で交換した・複数回交換したという事例も見受けられるのですが、遡って補填や複数回補填の情報がないため、実際にどのような扱いがされているのかは不明です。
良い点悪い点

と、いうことで…我が家の個体も例に漏れずAdBlueタンクの洗礼を受けたわけですが、ひとまずメーカー補償が用意されていたことは不幸中の幸いでした。それでも決して安い故障ではありませんから、再発しないことを願うばかりです。
ただ、何となく思うこととして…EU側の措置は『政治的な落とし所』のニオイがプンプンと漂うものに見えます。念のため調べてみると、他のメーカーでも似たような事例がありました。類似するものではアメリカにおけるユーザー集団訴訟も似たようなもの。その点、日本では高額修理になっても泣き寝入りになりがちじゃない?と思ってしまいます。コレ、全額自腹で交換して、後に補償が開始されたと聞いたらすごく嫌だなぁ。まぁ、今回に限って言えば『ありがたい』のひと言ですけど…。
ちなみに修理費の明細にさらっと盛り込みましたが、修理方針決定前のディーラー診断機チェック作業は有償でした。これも時代の流れですね。その点で言えばそろそろDiagBox環境は整備したほうが良いのかもなぁと思っています。

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