R52復活計画|最大難度のミッションへ挑む【後篇】

MINI R52
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作業その3:運転席シートベルトの交換

もうひとつ、これまた購入時から劣化が目立つ運転席シートベルトを良品に交換します。

BピラーのないR52の構造上、シートベルトの引き出し時に捻れ方向に力がかかってしまうため、その結果ベルト縦方向に強めの折れグセがついています。そのため、より捻れや折れが発生しやすくなっており、その状態でベルトを引き出そうとすると、内装パネル開口部にベルトが引っかかります。

そうすると今度はロードリミッターが誤作動してしまうため、シートベルトの装着ができなくなります。そうならないようゆっくりと捻れないようにベルトを引き出すようにしていますが、それでも引っかかるときがありずいぶん煩わしいなぁと思い続けていました。ベルト自体も長年の使用でほつれが目立ち、白いTシャツで乗ると黒い糸くずがいっぱい付着します(笑

そこで、ソフトトップと同時に購入したシートベルトに交換します。内装トリムが外れている状態であれば簡単に交換可能。こちらのベルトは折れグセやほつれが一切なく綺麗な状態。交換後はスムーズに引き出しできるようになりました。地味な改良ですが、満足度高め(笑

作業その4:ソフトトップASSY交換

さて、いよいよメインイベントのソフトトップ交換作業に着手します。

旧ソフトトップは開閉はおろか、サンルーフ部も全開にできない状態のまま。手動操作に切り替えてもソフトトップは全閉状態のため、ロールバーに引っかかるところまでしか開けることができません。ただし、この状態でもソフトトップ脱着は可能です。

ISTAの整備手順書を見ながら作業を進めますが、掲載写真がモノクロで低解像度+局所アップなものが多く『これは・・・どこの部分を指しているんだ?』と何度も作業の手が止まりました。それでも、ゆっくり半日かけて車体とソフトトップの切り離しが完了。もっと苦戦するかと思いましたが、外すボルト数とクリップは片側5個と意外にシンプルな構造。リア周りの内装パネルを外すほうが厄介なぐらいです。

脱着するボルトの位置によってはソフトトップ位置を開方向・閉方向へ動かして作業しますので、油圧ユニットのシャットオフバルブを一回転半回して手動モードにして→幌を畳んだり格納したりを繰り返しながら作業を進めます。

これがその油圧ユニット。トランクLH側に設置されています。購入した新しいソフトトップには油圧コンポーネント一式が付属していましたので、ソフトトップと一緒に取り外します。しかし、このユニットが後に大きなハードルになるとはこの時点で知る由もなく・・・。

これは助手席側のフレーム

最後に外すのが、ドア後方すぐ(写真では右端)に存在するナットです。ここまでバラしてみてようやく構造を理解。車体とソフトトップフレームはこの部分のボルトに引っかけている構造。フレーム自体は大きなU字構造ですから、取り外し時はリア側へ引き抜いて取り外し・装着時はこのボルトに差し込むように作業します。

最後は油圧ケーブルやユニットに気をつけながらソフトトップを持ち上げて完了です。大人2名で何とか外せるぐらいの重量感ですが、注意点がひとつ。作業指示書にも記載されているのですが、リア周りは念入りに養生しておいたほうがいいです・・・。

年式違いの適合作業

お次は新しいソフトトップの準備。今回装着する中古ソフトトップは2008年製造モデルから取り外したもの。2003年8月製造の我が家のR52に装着するにあたり、追加の適合作業が必要です。

2005年9月製造モデルよりソフトトップを全開にした際にロックする機構(格納ロック)が追加装備されています。これは衝突事故が起きた際に不用意にソフトトップが閉まらないようにするためのもの。それ以前に製造されたモデルはロック機構が搭載されていませんので、ロック機構やセンサーを旧仕様に適合するよう部材変更が必要です。そのまま装着したらダメかな・・・と思いつつ(笑)整備手順書に沿って作業を進めます。

実はこの作業について、何度も英語版の整備手順書を読んでも詳細を理解できなかったのですが、改めて日本語版を片手に現物をチェックすることでようやく全容が把握できました。やることをざっくり説明すると、

  • ソフトトップロックフックの突起を削り取る
  • ソフトトップフレームに装着されている格納ロック機構をすべて撤去
  • フレーム格納キャッチもロックなしモデル用のものに交換
  • 全開確認用ホール効果センサーの位置を変更

これらを行うことで前期型に適合させるという作業です。そして、この作業を行うにあたってはBMWから供給されているキットを購入するよう指示されています。品番は54347184988です。

画像は拾いもの。ディーラーに問い合わせしていませんが、正規ルートで購入するとえげつない価格なはず。

で、このキットの価格がなかなかえげつない様子。ソフトトップをASSY交換する作業はそう多くないでしょうから、在庫や納期もわからない。しかし・・・これをわざわざ購入しないと作業ができないのか?と思い立ち、旧ソフトトップから部材を取り外して再利用することにしました。

忍耐強く金ノコで切り落としたの図。バリが残るのでヤスリ掛けもしましょう。

まずはソフトトップロックフックの突起を切り落とす作業から。これは以前も実施した作業と全く同じもの。金のこでひたすら切っていきます。旧ソフトトップから外して流用する方法もあるのですが、ムダにバラして壊したくないという気持ちが真っ先に働いたため、切り落とす選択をしました。ちなみに旧ソフトトップに装着したロックフックは買うと異様に高いので、補修用として取り外し保管しています。

ステー部を拡大。わかりづらいですが右側に見える銀色の物体がリベット。破壊しないとステーは取れず。ステー自体も前期後期で長さが違います。

その移植作業、実はかなり面倒な作業だということが判明(笑)受け部を固定するステーひとつとっても、ビス留めな後期型に対し初期型は再使用ができないリベット留め。電動ドリルとサンダーでリベットを破壊しステーを取り外しましたが、今度は後期型のビスを流用しようにもネジ穴の径が合わない。これまた電動ドリルでステーのネジ穴を拡大して強引に装着しました。

わかりづらいですがセンサーは中側に装着
旧フレームは端部に装着

幌が全開かどうかを認識するホール効果センサーも移動します。こんな感じで適合作業を行います。キットがなくても何とかなりますが・・・あったほうが格段に楽だと思います。

油圧ユニットに問題発生

油圧タンクの右側、縦に3つ並ぶネジ穴の真ん中がシャットオフバルブの操作ねじ

年式適合作業を終え、いよいよ新ソフトトップに交換・・・と思った矢先にまたトラブルが勃発。今回購入したソフトトップには油圧シリンダーや油圧ユニットなどが装着された状態だったのですが、そのうち油圧ユニットに問題発生。本来、簡単に回るはずシャットオフバルブがビクともしません。

2年も放置していたから固着しているのかと思い潤滑剤を注入してみるも全くダメ。無理に回そうとしても真鍮のバルブが割れてしまいそうです。改めてバルブを観察してみると、既にネジ穴がガッチリと拡がってる状態ではありませんか。

これは購入前から何かあったんじゃないか?という気がしますが・・・2年前に購入した商品ですからどうしようもありません。このシャットオフバルブが操作できないと今後の作業を進めることができないので、途方に暮れてしまいます。

固定プレートと2本のビスを外せば油圧ラインを取り外し可能。意外とシンプルな構造だった。

シャットオフバルブの開放はあきらめ、油圧ユニットを交換することにしました。油圧ユニットからソフトトップ動作用の油圧シリンダーへの接続は簡単に縁切りできる様子。そこで、旧ソフトトップから油圧シリンダーのみ移植します。交換時に作動油がドバドバと漏れるかと思いきや、全く漏れることなく交換できました。

シャットオフバルブが正常な旧油圧ユニットを装着することで、ようやく新ソフトトップ装着作業が進みます。仮配線を行ってみると、旧ソフトトップでは不動となったキャンバストップモーターは正常に動作しました。まずは一安心。この状態でソフトトップの位置調整を行い障害要因を減らしていきます。

スペシャルツールがない環境での交換作業は大変!

いったん組み上がったソフトトップを正常動作させるため、まずはソフトトップ開閉の作動条件を満たせるように作業を進めます。その作動条件リストは以下のとおり。

  • バッテリー電圧が10.5V以上
  • 周辺温度が-10℃~+80℃の範囲
  • 油圧ポンプモーターが過熱していない
  • テールゲートが閉まっている
  • テンションシャックル(イージーロード)がロックされている
  • リアシェルフが設置されている
  • 車速が4km/h以下(サンルーフは120km/h以下)
  • Rrサイドウィンドウが下がっている
  • 操作スイッチが押されたままである
  • 5箇所設置されたホール効果センサーが正しく作動している

各コンポーネントが正常に作動していることが大前提となりますが、安全性確保のため条件がたくさん用意されています。作業にあたっては内装トリムを組み上げる前に動作確認を行い→問題なければ内装を組み上げる手順にしたいところですが、リアシェルフのスイッチやトランク開閉状況、イージーロード機能(幌の後部を持ち上げて荷物を出しやすくする機構)のロックも条件となるため、その辺のパーツを組みあげてからじゃないと作動チェックができません。

ちなみに本来の整備手順では、ソフトトップ自体の作動確認はユニバーサルリフトに乗せバッテリーを直接接続するケーブルを用いて電源供給して実施(コンバーチブル制御モジュールを介さない作動)のため、装着前に各機構の動作チェックは終わっているものという前提。さすがにスペシャルツールを買うほどのお金はありません・・・。仕方がないので、スイッチ周りの内装を一度元に戻します。

ホール効果センサーの動作チェック・調整作業

まずはホール効果センサーの場所とその機能の確認。キャンバストップ機構周辺3箇所に設置されたセンサーはそれぞれ「(1)キャンバストップ全開」「(2)キャンバストップ全閉」「(3)キャッチフック開閉状態」を確認しています。フレーム部の2箇所に設置されたセンサーは「(4)ソフトトップ完全収納」「(5)ソフトトップ完全にチルトアップ」を確認しています。

このうちルーフカセットホールセンサーの動作状況=キャンバストップ動作調整がかなり重要であり、キャンバストップのスライド量の調整やホールセンサー位置の調整など、あれこれ調整してセンサーが正常作動しないとソフトトップ動作に移行しないということがわかりました。

これは車両チェックしていない状態のツリー。現行車に比べてコンポーネントが少ない(笑

そこで、車体とISTAを接続してチェックしてみます。コントロールツリーからCVMユニットを呼び出し、各所を動かしながらセンサーの作動状況を確認していきます。

ソフトトップ5箇所にあるホール効果センサーのステイタスを読み出す項目があるので、まずはキャンバストップを動かしてみてその反応をチェックしてみます。その結果、特段調整をしていない状態でもホールセンサーは正常にキャンバストップ全開・全閉状態を認識しています。

あとはソフトトップが全開になるための各条件が反映されているかを確認します。センサー(スイッチ)はリアシェルフとテンションシャックルのロック部にそれぞれ設置されていますが、これらもISTA上では押されている反応を示しています。

条件は揃っているので、あとは開けるだけ!・・・と思いきや、動作ストップ。ISTA側にはCVMユニットから『開かない』というエラーが記録されます。あぁ、またダメだったかと肩をガックリ落としたのですが、ふと整備手順書に『シャットオフバルブ操作後は何度か動かすことでエア抜きがされる』という記述があったことを思い出します。

そこで、念のため各可動部にモリブデングリスをスプレーし動作がスムーズになるように処置し、何度かソフトトップ開閉操作を繰り返したところ・・・ようやくソフトトップが全開になりました!ここに辿り着くまでずいぶん長かったなぁ〜

テストを繰り返し、ようやく装着完了

CVMエラー『動かない』には本当に肝を冷やしました・・・。

開閉動作を繰り返すうちに各部にグリスが回ったのか次第に動作が軽くなり、正常に動作するようになり一安心。ソフトトップの位置決めもバッチリと決まり、閉じる動作の際もAピラーのガイド部にジャーナルが引っかかりもなくスムーズに入る状態になっています。心配していた旧い油圧ユニットも全く問題ありませんでした。

実際に動かしてみた結果からわかったこととして、各部の潤滑はかなり重要なポイントかもしれません。これが足りないと各所に過大なストレスがかかり、パーツが破損する原因になるのでしょう。潤滑する前後の動作を見ている限り、定期的にメンテが必要だなぁという印象です。

かなり汚いです・・・

さて、交換したソフトトップは2年あまりの放置ですっかり汚れ放題。ソフトトップ全体にコケの発生もあり綺麗な状態ではありません。後日、綺麗に仕上げることにします。

また、リアのゴムモールもゴムが硬化しておりポロポロと剥がれてくる状態になっていますが、旧ソフトトップのようにパックリと割れた状態ではありませんので、こちらはAmazon等で販売されているゴムモールを取り付けて様子を診ます。

心配していたスレについては、多少発生しているものの旧幌よりかはだいぶマシな状態でした。今はその予定はありませんが、いつかは新品の幌に交換するのもアリでしょうね。

R52購入後、最大のミッションを終えて

と、いうことでようやく長年の懸案事項だった作業がようやく完了しました。

当初はお盆休みの3日間程度で完了と思って開始した作業も、集中的に作業できなかったこともあり延べ7日ほどの作業となりました。当然1回の滞在で終わるはずもなく、仕事がてらに3回も実家に立ち寄り少しずつ進めていました(笑)お盆の3日間は涼しかったのですが、それ以降厳しい残暑が続き猛暑日もあったため、屋根がある作業場所でしたがとても大変な作業になりました・・・。

作業工程は大がかりなものばかりでしたが、結果的に言えばDIYレベルでもできました。ただし、前述のとおり日本語版の整備手順書・診断システムの準備は必須です。事前に下調べ・シミュレーションを念入りにしておいたほうが良いでしょう。準備万端!と思っていましたが、遠隔地での作業だったため結果的に場当たり的な作業になってしまいました。

それから・・・作業が長引き集中力を欠いたタイミングで新たなダメージを残す結果に。

まずソフトトップASSY装着時にテールランプ上部にソフトトップフレームを擦ってしまい擦り傷をつくりました。養生していましたが、養生面積も厚さも足りなかった・・・。もうひとつが、テールゲートのボーデンケーブルを取り外して作業を行っていましたが、ふとした拍子にテールゲートが思いっきり開いてしまい→バンパーに接触。その衝撃で大きめの凹みをつくってしまいました。

どちらも事前に注意して作業していたのに、やってしまいました。

大物はこれにて完了、あとは地道な原状回復と維持作業

ようやく見るに堪えられる姿に戻ってきました

個人的には、これでようやく『憑き物が取れた』という印象です。工場出荷時の仕様としては個人的なツボを押さえたものでしたが、その代わりに車体のあちこちに好みでないカスタムが施されている状態はお世辞にも美しいといえるものではありませんでした。

劣化に対するメンテナンスも不十分で、納車直後はみずぼらしさと禍々しさ(笑)が取り巻いている印象すら覚えたのですが、地道にパーツを調達して原状回復する作業を続けてきた結果、ようやく求めていた理想像にかなり近づいてきました。

本当にボロボロでした・・・

一方、R50系の最終型ですら15年超のロートル。中古部品を調達しても、相応に劣化していることも改めて認識したところ。プラスチックやゴム系部品はそろそろ寿命を迎えるものも少なくありません。

OEパーツの供給が多いR50系は機関系の維持がしやすい反面、内外装パーツはOEパーツのチョイスがないため、モノによっては高額な新品パーツを購入しなければならないかもしれません。できる限りは中古良品で進めて行こうと思いますが、そろそろ維持が難しくなる頃合いなのかなぁ。仮に今回の作業を全て純正新品パーツでやったとしたら・・・計算していませんが、車体本体額を優に超える額になるのは間違いありませんし、そこまでやるなら乗り換えようと考えるのが普通ですよね。

ここまでやったから、というわけではなく心底愛情を持って乗っているR52。いつまで乗れるかわかりませんが、ますます大事にしていきたいものです。

コメント

  1. HOPE より:

    これは壮大な物語です。
    日本でこれをDIYでやったのはHokkai K2O様だけではないでしょうか。

    説明してくれている内容は、構造がはっきりとは分かっていない私には正直言って半分以上が理解不能な状態ですが、それを必要とする方にはとても貴重な情報だと思います。

    これは情熱がなせる業であり、困難を楽しむ精神があってこそ。
    しかも(怖いもの知らずの若者ではなく)30代後半でそれを持ち続けているHokkai K2O様のパフォーマンスに感服です。

    ちなみにというか、参考に私のお盆休みがどうだったかを紹介すると、ドアミラー付け根のゴムを純正新品に交換した程度。ついでにミラーも単品で中身まで磨き上げて自分的にはかなり満足度高かったのですが・・、いや、遠く遠く及びません。恐れ入るばかりです。

    • アバター画像 Hokkai_K2O より:

      そこまでお褒めいただくとは・・・恐縮しきりです。ありがとうございます。

      今回DIYで作業しましたが、実はそこに至るまでには紆余曲折もありました。
      中古ソフトトップ購入から作業まで2年の空白期間がありますが、やり遂げる自信がなかったので整備工場やショップに部品持ち込みで作業が可能か打診した時期があります。結局、どこも「難しい」という回答でDIYするしか方法がなくなったというのが真相です。

      中古部品で状態がわからず、やってみても動かせる確証がない作業はなかなか請け負ってくれないようです(笑)今回はたまたま動いたから良かったものの、そうでなかったらR52に帯するモチベーションが回復不能なほどに落ちたでしょうね・・・。終わるまではドキドキが止まりませんでした。

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