約5年間、我が家のアシとして活躍してくれたX2ともうすぐお別れ。乗り換えに迫られる出来事がなければあと数年は乗り続けるつもりでいましたが、急なお別れになってしまいました。でも正直言うと、寂しい・心残りという感じは一切ないのが本音。なんでそう思うのかを自問自答するついでに、F39 X2を統括してみます。
先に結論:乗る人を選ぶ1台でした
いきなり結論。F39 X2は『乗る人を選ぶクルマ』でした。良くも悪くも万人ウケするクルマではありませんし、安易にオススメできるクルマではありません。その反面、このクルマが意図したターゲットに当てはまる人であればバッチリとハマるクルマであると思います。
どんな人が当てはまるのか。2018年の発売時、BMWが想定したX2の購買ターゲット層は『ミレニアル世代』でした。1980~90年代に生まれ、2000年前後に社会人を迎えた世代とのことを指します。デジタルネイティブで多様性に理解があるのが特徴だそうです。その点、X2は『挑戦する人であれ』(海外コピー)『反逆者・Unfollow』(日本コピー)など、ターゲットへ向けたであろう文言が並んでいます。
そして、そのキャラクターはクルマそのものの性格にも色濃く表れています。明らかにやり過ぎと思えるほどに振り切った足回りやハンドリング性能の設計、他のBMWモデルと異なるデザインテイストなど、今までのBMWユーザー層とは異なるところを狙ったものと感じます。
この尖ったキャラクタ、個人的には好みの部類。ですが購入時にターゲットど真ん中にいた私も気がつけば40代。最初は好きと思えたキャラクターが最近になって『少ししんどいなぁ』と思うことがちらほら。もっとも、体調が優れない日は極力乗らないようにしています。やはりこのF39 X2は20代後半~30代半ばぐらいの方が乗って楽しむのがベストなクルマなんだろうなというのが、私なりの結論です。
ここまで尖ったキャラクターはどうして誕生した?
そもそも、どうしてX2はここまで尖ったキャラクターで誕生したのかを紐解くには、BMWとライバルメーカーのSUVモデル投入の歴史を見れば答えが見えてきます。
日本発祥のサブコンパクトSUVモデル
もともとB~CセグメントクラスのSUVは日本メーカーが得意とするクラス。1990年後半より、トヨタRAV4・ホンダCR-V・日産エクストレイルなどの国産モデルが全盛でした。同クラスの乗用車をベースとしており必要十分な装備と買いやすい価格を売りとしており、日本でも一大ブームを巻き起こします。2000年頃に登場した後継モデルは海外市場からの「もう少し大きいサイズが欲しい」という要望を汲み取り大型化。現在のサブコンパクトSUVの礎となるサイズに進化します。
これにより日本だけでなく北米やヨーロッパでは好調なセールスを記録、サブコンパクトSUVカテゴリーが確立していきます。これに対してヨーロッパメーカーが黙っているわけがありません。先立って2007年にはVolkswagenからGolfをベースとしたSUVのTiguanが発売され、ようやくヨーロッパ勢が本腰を入れて挑みに来たという気運が高まります。
それに続き、プレミアムメーカーも同クラスに新型車を一気に投入します。先に登場したモデルたちと異なり、ブランドイメージを損ねないよう内外装や装備レベルを上級化しているのが特徴です。後にこれらのモデル群は『サブコンパクト・ラグジュアリーSUV』と呼ばれるカテゴリーとなり、「出せば売れる」時代に突入していきます。各社が投入したモデルを時系列にすると以下のとおり。
- 2009年:BMW X1(初代E84)
- 2011年:Land Rover Range Rover Evoque(初代L538)/Audi Q3(初代8U)
- 2013年:Mercedes-Benz GLA(初代X156)
- 2016年:BMW X1(2代目F48)
- 2017年:BMW X2(初代F39)
- 2018年:レクサスUX
先陣を切ったのはBMW。E84 X1で勝負に挑みます。E91 3シリーズツーリングをベースをベースとし、既存ライバルと異なる後輪駆動ベースのAWDを採用したのが特徴です。優れた素行性能を有しており、内外装もプレミアムを謳うにふさわしいものでした。
ライバルメーカーの動向
既に上位モデルのX5・X3が好評を博していたことも追い風となり、E84 X1は好調なセールスを記録します。さらに後を追うかのように他プレミアムメーカーも新規モデルを投入していきます。X1登場の2年後の2011年には高級SUV市場が得意なLand Roverから初代Evoque、AWDモデルに強みを持つAudiから初代Q3が参入、さらに2013年にはMercedes-Benzから初代GLAが発売されます。
どのモデルもそれぞれのメーカーが持つ強みを存分に盛り込みつつ、コスト的に有利とされる前輪駆動ベースのモデルでした。入門モデルとしての位置づけがされており、比較的購入しやすい価格帯でありながら高機能・高級感をしっかり体感できるモデルに仕上がっていたことも共通しています。こうして競合モデルが出そろったことで各社間の競争はより激化していきます。
BMW内部でのキャラクター区別
クラス先駆者だったBMWもこの状況に黙っているわけがありません。2代目BMW X1は長年拘っていた後輪駆動を捨て、ライバルと同じ前輪駆動ベースのモデルに生まれ変わります。車体サイズは大幅に全高を増加させよりスペース効率に優れるモデルに進化。徐々にプレミアムクラスへ移行し始めた日本メーカーのモデルを牽制するかのような作りでした。
一方、前輪駆動化により初代モデルが体現していた走行性能への拘りという美点が失われたのも事実。前述のライバル達はどのモデルも低めの全高を採用していたこともあり、それらのモデルと対抗できるものを用意しなくてはいけません。そうして誕生したのが初代X2 F39です。
もっとも、Evoqueは上位モデル譲りの悪路走行性能とラグジュアリー感の両立、GLAはラグジュアリー感とスポーティ感の両立をウリとしていました。ラグジュアリー感はF48 X1が担うとすれば、おのずとX2のキャラクターがニッチで一点突破なポジションに行き着くことは必然だったのではと考えます。
その結果、やり過ぎなF39 X2が登場するわけで・・・。
X2の良い点・悪い点
前置きが長くなりましたが、やり過ぎと評したF39の善し悪しについて触れてみます。以前記事と重複する内容があります。そちらもご参考のほどに。
エクステリア
美的センスがない私がBMWらしい・らしくないを表現するのは難しいですが、ことF39に関しては明らかに他のモデルと異なる内外装を持っていると感じます。特に販売のメインであるM Sport X仕様に関しては、フロント・リアバンパーやボディサイド部にフローズングレーの加飾が斬新さを演出しています。
参考までに標準車とM Sport仕様の写真も。ロワーボディの仕上げが違うだけで雰囲気は全く別モノに感じます。M Sport Xはエクストリームスポーツをイメージしてデザインしたと言われていますが、そのアプローチ自体がBMWでは極めて珍しい方向性だと思います。本国ではXを冠さないM Sportの設定もありますが、こちらはモノトーンで仕上げられています。もっとも、1モデルに3つのデザインバリエーションを用意するのも珍しいことです。
なお、F39からデザイン言語が変わったといわれています。その特徴として、ベースとなったF48 X1に存在したサイド面の凹形状の絞り込みがなくなり、全体的にふくよかで張りのある面構成になっています。これはF39以後他のモデルでも取り入れられたデザイン要素です。細かなディティールもそれまでのモデルと異なり、ヘッドライト内部のDRL光源形状やテールライト光源形状なども変化しています。
好みが分かれるところに思いますが、これらの要素のおかげで2代目が登場した現在でも明確に古くさく感じることはありません。もし今後『古臭く見えてしまう』とすれば、真っ先に思い浮かぶのが最新モデルのような巨大キドニーグリルを備えていないことが挙げられることになるでしょうが。個人的には旧来のアッサリ顔のほうが好みです。
このクルマのイメージカラーは我が家の個体にも塗られているガルバニック・ゴールド。パッと見はギョッとし乗っていればすぐに身バレする色ですが、個人的にはこのフォルムに一番マッチしているのはこの色と断言します。日本はホワイト人気が高いと思いますが、有彩色のほうが絶対にオススメ。なぜなら、凝ったボディラインが日差しの具合でしっかりと映えるからです。
インテリア
気合いの入ったエクステリアに対し、インテリアはベースとなった兄弟車F48 X1と共通の意匠なのがちょっと残念なポイント。差別化と言えるレベルでもありませんが、M Sport X仕様はダッシュボードやシートに黄色のステッチが施され、天井・ピラー内張りはブラック化される程度のことは盛り込まれています。
後発モデルなんですから、フルデジタルメーター採用やインフォテインメント機能の強化などもう少し差別化を図ってくれても良かったのでは?と思いますが、コスト的には難しかったのでしょうかね。使い勝手は悪くなく、しっかり右ハンドルに対応する作り込みがされていることは隠れた美点です。現行型はその美点がなくなってしまいましたが。
やり過ぎな足回り・ハンドリングの設えに加え、Mスポーツシートの設えもやり過ぎと思ってしまうポイント。クッションはかなり硬めのものを用い、高いホールド性を持つ形状に仕立てられています。スポーツマインドを高めるには絶好のアイテムなのですが、長時間座ると疲れます。その要因はシートバック形状にあり、腰周りのサポートが弱く背筋あたりのサポートが強すぎるのです。また、骨盤を立てて(=尻をしっかりとシート後端に沈めて)座る姿勢を取ろうにも、シートバックが合わず微妙に体勢を調整→結局いったん尻を浮かせて座り直すということを繰り返すため、終始落ち着いて座っていられません。
日本仕様のMスポーツシートはシートバックのサポート幅のみ調整が可能ですが、本国仕様はランバーサポート調整機能の追加オプションがあります。これがあれば少しはマシだったのかもしれません・・・。
なお、ルーフが低いので座面高さを低くして座ろうとする方が大多数と思いますが、前述のとおりダッシュボードはX1と共通のものですから、ある程度高い位置に座るのがイニシャルのはず。アームレストの位置関係を鑑みても、このクルマは低く座ることを想定していません。そのためかなりアップライトに座らないとシートの欠点がより顕著に表れます。
エンジン・パワートレイン
搭載されている直列4気筒DOHCガソリンターボのB48A20Aは言わずと知れたBMWのメインストリームエンジンのひとつ。現在販売されている最新ラインナップにも搭載が続く機種です。2Lターボエンジンとしてはスタンダードなスペックですが、日常使いに於いてはその動力性能に不満を持つことはありません。
特に、トルクの出方が適切に思います。低回転域から最大トルクを発揮し、ドライバビリティの面ではそれなりに活発さを感じ取れます。一方、ぶん回しても劇的なフィーリングやサウンドをもたらすものではなく、実用に徹しているなぁという印象です。もっとも、劇的な何かを期待するのであれば最上位モデルのM35iを選ぶほうが良いでしょう。
ちなみに燃費性能は当初期待ほどではなく、ヨメ氏の日常使いでは10km/Lを超えることはありませんでした。高速走行でも15km/Lぐらいが限界。AWD車ですからこれぐらいなんでしょうけど、もう少し伸びてくれれば万歳だったなぁと思っています。
足回り・ハンドリング
F39最大の特徴であり、短所でもあるのが足回りを中心とした乗り味の仕上げです。
とにかくビシッとカタい足回りはペースを上げていくほどに好印象で、峠道をハイスピードで攻めていくような走りにはビッタリとハマるのですが、街乗りではストロークが足りず大きな入力を受けたときの突き上げで車体が大きく揺さぶられます。また、大型車の交通量が多く路盤が轍状に凹んでいる道ではバンプステアがひどく、頻繁にステアリングが左右に振られ運転しづらいという明確な欠点があります。
ステアリング操作に対する反応は比較的シャープ。ただし切り始めの感覚と実際の動きに少しギャップがあり落ち着き感がちょっと足りません。重さについては軽くもなく重くもなく、という具合ですが、ステアリングから路面の感触を読みづらい点も気になるポイントです。
これら気になる点の原因は20インチホイールとランフラットタイヤの組み合わせでしょう。X2の開発者は狙って20インチ設定を用意したと言われていますが、スイートスポットが狭すぎます。
対策としてはインチダウンと脱ランフラットでしょうが、M Sport X標準の19インチでもまだやり過ぎでしょう。この車体には18インチとラジアルタイヤが適正チョイスだと思います。その代わり、見た目が寂しくなってしまうのが悲しいポイントです・・・。幾度となくインチダウンを検討しましたが、それはそれで何か嫌だったというのが本音。
ユーティリティ
個人的に、このクルマ一番の良かった点は室内空間がきちんと考えられていることです。F48から大幅に高さが低められた屋根のせいで窮屈そうに見えるのですが、実際は前席・後席共に普通に乗る分にはけっして狭くはないですし、トランクの荷物積載能力もそれなりにあるのです。
開口部面積もしっかり取られ、奥行もあるトランクは意外と荷物がしっかりと積める上、床面ボード下にも大きめの収納スペースが存在していることから4人家族の我が家で積載能力に困る場面はほぼ皆無。2列目シートを畳んだ際はフラットになるよう仕立てられています。
後部座席のアクセス性も悪くありません。後席ドアは横方向に広く開くようになっており、乗り込みしやすい形状になっています。回転式チャイルドシートを乗せても大丈夫。ただ、前後席間のスペースはそこまで広くありませんので、私の運転ポジションでチャイルドシートを後ろ向きにするとシートバックとチャイルドシートが当たります。
各種装備
いちばん気になったのが、2018年デビューのクルマとしては安全装備レベルがいまひとつだった点です。自動ブレーキやアクティブクルーズコントロール機能は装備されていましたが、フロントガラス上部の単眼カメラのみを用いたシンプルなものだったため、その性能はいまひとつに思います。特にACCは動作キャンセルになる場面が多く、前車追従時の加減速制御も粗さが目立つため『これなら自分で走らせたほうがいいな・・・』と思うことが少なくありません。
また、レーンキープ機能やブラインドスポットモニター、サイドカメラといった装備はオプション含め設定がありません。ベースとなったUKL2プラットフォーム採用車に共通する事項ですが、もう少し頑張って欲しかったなぁというのが本音です。
もうひとつの不満は、本国仕様では豊富に用意されているオプションが日本仕様では選べないものが多い点です。セールスや各種法令の都合で仕様を絞っていると想像できますが、自動ステアリング操作も可能な渋滞アシストやトラフィックサインインフォなど、あれば有用な装備がモデル末期まで採用されなかったのも残念でした。
快適装備についても、ステアリングヒーターやHarman/Kardonサラウンドシステムなど個人的に装着したいと思える装備が選べないのが残念。セールス上の都合(価格帯の問題でしょう)と思いますが、受注生産で選べるようにしてくれてもいいのになぁと思ってしまいます。一番の不満は、セキュリティアラームが装備できない点は一番気になるポイントでした。誤作動に対するクレーム回避なのか?と勘ぐってしまいます。高価なクルマなんですから、OPでいいから日本導入してくれよと思ってしまいます。
まぁ、新車購入じゃないから装備に関して何か言えるわけじゃないですが・・・。
UKL2兄弟ならばこっちのほうが・・・
最後に、もう一度言うとX2は『楽しいクルマだけど乗り手を選ぶクルマ、40代にもなればもう少し落ち着いた乗り味のクルマが好み』という感想で締めくくります。明確な落ち度や瑕疵はありません。もう少しBMWが冷静にF39を作り上げてくれれば良かったのに、とさえ思います。じゃあ仮に、どうしてもBMW製サブコンパクトSUVが欲しいと思ったとしたら、何を買うべきなんでしょうか。
個人的最有力車はF60 MINI Crossoverです。全方位に渡ってF39やF48に勝っています。聞くところによればF60の開発は外部委託だったそうですが、本家モデルよりもこちらのほうがよっぽど真面目に作られています。
以前まとめた記事ですが、それから4年経ちより一層F60の優位性を感じています。運転しているときに感じるアレコレを元にすると、F60のほうが気持ち良いドライビングが可能です。MINIのバッジがついていますが、ハッチバックモデルのようなアジリティ重視志向ではなく適度なスポーティ感を持ちつつコンフォートさをうまくバランスした志向の持ち主です。
特に、シートの作りに関してはやたらと極端なF39より、スポーツシートであっても長時間乗っても疲れないいう点で圧倒的にF60のほうが優勢。ハンドリングもこちらのほうがよっぽど素直で適切です。乗り心地に関してはファミリー向け要素が入っているF60のほうが日常使いの面で優れており、すっ飛ばした時の性能も決して劣ってはいません。
装備レベルもF60のほうが断然に優勢です。ただし注意したいのが、BMW Japanが先行発注→ディーラーで即納可能車として並んでいたモデルは除外します。できる限り、ある程度の上級装備を盛り込んだオーダー車に限っての話です。個人的には、Harman/Kardonサラウンドシステムやセキュリティアラーム、後期モデルであればステアリングヒーターを装備しているクルマをオススメします。F39では選べないヒーテッドフロントスクリーンもオススメです。吊るしであれば、F39と大差ありません。
安全デバイスはどちらもショボいので気にしない方が吉。足りないと思えば新型をどうぞ。
ちなみに新車で買うとすると2代目X2 U11や3代目Countryman U25しか選択肢がありませんが、どちらも安全デバイス以外の部分、パワートレインや乗り味に大きな変化はありません。ちなみにU11 X2に関してはM Sport仕様のキャラクターがいくぶんマイルドになり少しは門戸が拡がった感じがありますが、それでもU25 MINI Countrymanのほうがまともに作られていると断言します。
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