以前の記事でヨメ氏がDS3購入に至る経緯を綴りましたが、今回はその派生としてDS3に焦点を当てた内容です。このクルマ、購入した本人だけでなく、長らくMINIしか乗ってこなかった私もすっかり気に入ってしまった1台でした。今でも鮮明に記憶が残る同車について、マニアックに掘り下げてみます。
異端なCITROENの(さらに)異端児
CITROENといえば、独創的で先進的なクルマを生み出すことで知られているフランスの自動車メーカーです。1919年にパリで創業、社名は創業者のAndre Citroenの名前が由来となっています。小型から中型のクルマ造りを主力として現在に至りますが、その間には幾度か経営危機に見舞われています。
最大のトピックは1970年代にCITROENと同じくフランスを本拠とする競合会社PEUGEOTの傘下に入りグループPSAとなったことです。それ以降はPEUGEOTと共通のコンポーネントを使用したモデルを製造・販売していくことになります。
同車のヘリテージカーのひとつである2CVは日本でも知られた存在。1948年のデビュー当初は奇抜な見た目からアレコレと揶揄されるものでしたが、実用的でシンプルな構造ながら性能が良く安価だった同車は大衆層に飛ぶように売れました。一度見たら鮮明に記憶に残る外観からメディアでも数多く扱われており、多くの人が目にしたことのあるクルマではないでしょうか。
時を経て2009年に送り出されたブランニューモデルDS3は、同社の歴史の中でも大きなトピックでした。車名の「DS」はかつて同社が販売していたCITROEN DSをルーツとするもの。1955年に発売された同車もまた、前衛的な外観と先進技術を搭載した名車として名を馳せた1台でした。
ただし商品性はレトロリバイバル的なものではなく、革新・前衛を際立たせたモデルラインとされており、DS3に関しても開発陣がアンチレトロを公言するほど。その点では、1955年のDSと同じスピリットで開発されたモデルといえます。
DS3のベースは2代目CITROEN C3
完全なブランニューモデルとして登場したDS3ですが、そのコンポーネントの多くは同時期に開発・販売された2代目CITROEN C3をベースとしています。そしてC3もまた、ヘリテージカー「2CV」をモチーフとして開発されたモデルです。丸みを帯びたボディスタイルやグラスエリア・ホイールアーチなど随所に2CVを感じさせるスタイルを採用。内装もステアリングやメーターパネルに過去のCITROENモデルを意識した造形が採用されていました。
初代C3が登場するまでの同社製Bセグハッチバック車は、PEUGEOTのOEモデルのような印象が強い仕立てでしたが、C3の登場により転機を迎えることになります。屋根着脱式のカブリオレモデル・C3 Pluriel、コンポーネントを共有しつつホイールベースを短くしてスポーティな性質としたC2、MPVモデルのC3 Picassoなど派生モデルが多数登場、没個性なモデルが多数登場しています。
2代目C3はキープコンセプトの仕上がりで発売されましたが、内外装の洗練さや上質感を高め、よりキャラクターが引き立つものになりました。プラットフォームは初代モデルからキャリーオーバーされたものが引き続き採用され、小排気量ガソリンエンジンとディーゼルエンジン(※どちらも日本未導入)も継続採用されましたが、上位モデルのエンジンは新型エンジンに刷新されています。
パッと見の印象が大きく異なるため気づきにくいですが、C3とDS3はボンネット・フロントフェンダー・ヘッドライト類やダッシュボード、シート等に共通意匠を採用しています。エンジンやパワートレインも共通のものが採用されています。実際、開発初期はDSを名乗らずC3クーペとして世に出る予定でしたが、それをあえて別名称を名乗ることでより商品性を際立たせることを選択しました。
言い換えれば、C3が一般的なBセグメント車に求められる質実剛健な方向に仕立てられなかったのは、兄弟車であるDS3の存在があったからかもしれません。
ライバルを意識したモデル展開
DS3のデビュー当時、BMW MINIを筆頭としたプレミアムBセグメント市場はフォロワーとしてAudi A1やFIAT 500などの個性的なモデル登場し始めた頃でした。クラス先駆者であるBMW MINIは初代モデルの大ヒットを受け、2006年に進化を図った2代目モデルが登場。初代に引き続き、搭載するエンジンバリエーションを複数用意しています。
DS3もMINIのセリングポイントに倣い、標準モデルとハイパワーエンジンを搭載したスポーツモデルの2本立てのグレードを設定しています。これが実現された背景には、BMWとPSAが共同開発した1.4L&1.6L直列4気筒エンジンの存在があったからでしょう。
初代MINI(R50)に搭載したトリテック・エンジンの代わりとなる小型横置きエンジンを必要としていたBMWと、ディーゼルエンジン開発に注力する一方で陳腐化したガソリンエンジンを刷新する必要があったPSAグループの思惑が一致した結果、「プリンス」エンジンが登場。細かな仕様違いはあるものの、両車は同じエンジンを搭載しています。
もうひとつ、MINIのセリングポイントに倣った点として多彩なボディ(ルーフ)カラーやダッシュボード、シートカラーを選べる「ビークルパーソナリゼーション」を採用しています。ルーフデカールやミラーキャップ、ホイールのセンターキャップなどのアクセサリーも多数用意されていました。
DS3の譜系
そんな初代DS3の譜系をまとめてみました。
- 2010年:国内発売開始、グレードはChicとSport Chicの2種を設定
- 2013年:カブリオモデル登場+テールライトデザインを刷新
- 2014年:ベースグレード(Chic)のパワートレインを刷新
- 2015年2月:ヘッドライトを刷新+自動ブレーキを追加装備
- 2015年11月:ベースグレード(Chic)のパワートレインを再刷新
- 2016年:全モデルフェイスリフト、DS顔に刷新
- 2018年:最終モデル発売、後に次期型へバトンタッチし販売終了
こうしてみてみると、8年を超える期間にわたり販売されておりモデルライフが長かったことがわかります。これはベースとなった2代目C3だけでなく、DS3より後に発売されたDS4・DS5よりも長い期間に及びます。
モデル譜系の注目ポイントとしては、ハッチバックモデルから数年遅れてカブリオモデルが登場しています。初代C3に設定されたPlurielと同じく、左右のルーフフレームを残しトップのみ開閉するソフトトップを採用。ただし、Plurielはソフトトップを全開にしたあと、ソフトトップをラゲッジに収納→着脱式ルーフフレームを外し→スパイダー状態にできる凝った仕様でしたが、DS3はトップのみ開閉する仕様となりました。
アルミ製のルーフトップは12kgの重量があり、かつ車体に格納することが出来ないという驚きの仕様だったため、例えば自宅でスパイダーにしてしまうと帰るまで屋根を開けっぱなしにするしかないというものでした。言わば「中途半端」でしたから、これで良いという判断だったのでしょうか。
もうひとつの注目ポイントは、ベーシックグレードChicのパワートレインが2度刷新されていることです。デビュー当初は「プリンス」1.6L 直列4気筒エンジンに4速ATの組み合わせでしたが、2014年にはグループPSAが独自に開発した1.2L 直列3気筒ガソリンエンジンと5速2ペダルMTの組み合わせに全面刷新されています。
EBエンジン新規開発の理由としては、当時の欧州勢がダウンサイジングに続く一手としてレスシリンダー化を進めていたことに起因します。シリンダー数を減らすことで可動部品が減る=機械損失が減る効果を狙いとしています。また、エンジン内部部品を保護するために冷却水を用いてエンジンを冷やす必要がありますが、そこでの冷却損失は1気筒あたり400〜500cc程度が理想とされています。そのため、3気筒であれば1.2〜1.5L、4気筒であれば1.6L〜2.0Lの排気量とするエンジンが多いのはこのためです。
さらにその1年後には再びパワートレインが刷新され、3気筒ガソリンエンジンは排気量そのままに直噴化+ターボを追加することで、よりパワフルなエンジンに進化しました。同時にトランスミッションもアイシン製6速ATに刷新。これによりドライバビリティは旧型より大幅に改善。旧モデルより車重は増加したものの、燃費性能はさらに向上しています。
こうしてモデルライフに何度もパワートレインを刷新できるのは、同じパワートレインを搭載するモデルが多く量産効果があるため。現在もグループPSAが販売するモデルの多くにこのEB2エンジンが搭載されています。なお、上位モデルのSport Chicについてはモデルライフ通じて前述のBMW共同開発1.6L 直列4気筒ガソリンターボエンジンと6速MTの組み合わせに変更がありませんでした。
モデルライフ途中で大幅なイメージチェンジ
モデルライフ途中となる2016年には、DSブランド独立に伴ってフェイスリフトを実施しています。CITROENから分離したDSはアヴァンギャルドなデザインに先進テクノロジーを組み合わせる高級ブランドに舵を切ることとなり、DSモデルもそれに準じたものに修正されていきます。一方のCITROENは独創性と快適性を持つ方向へシフト。DSとは違う方向の独創性を高めたモデルを生み出していきます。
ちょうど転換点のど真ん中にいたDS3も、後期モデルで高級感を醸し出す方向にシフトしました。その一環としてダブルシェブロン顔が廃止され、メッキ面積を拡大+大型化したグリルを採用したフロントフェイスに刷新されました。個人的にはこの押し出し感の強い後期モデルがどうにも好きになれず、前期モデルのままでよかったのに・・・と思っています。
やたらと広い守備範囲・・・?
DS3は当時のCITROEN/DSブランドのイメージリーダー的存在であったことから、それらを具現化した特別仕様車も多数登場しました。デビュー直後、それまで上級モデルのC4がベースとなっていた世界ラリー選手権(WRC)参戦モデルがDS3に変更。そのイメージを活かしたスポーツモデルが発売されています。
その最たるモデルがDS3 Racingです。カスタマー向けラリー参戦ベース車であるDS3 R3をベースに、普段使い可能な内外装や装備を施したモデルに仕上がった同車は、Sport Chicと同じ1.6L直列4気筒ガソリンエンジンを搭載していますが、スペックは最高出力207ps、最大トルク275Nmまで引き上げられています。足回りに関しても車高とトレッドを見直し、ラリー車に近いスペックを有したモデルでした。個人的にはルーフやボディサイドに配されたデカールがちょっと子供っぽいなぁ・・・と思う部分はありましたが、想定以上のオーダーがあった模様。日本にも35台が輸入されています。
一方後期モデルではフランス・パリを本拠とするファッションブランドとコラボレートしたモデルが登場しています。その中でもファッション・コスメ・香水ブランドでおなじみのGIVENCHYとコラボしたモデルについては、センターコンソール部にオリジナルのコスメティックを内蔵するユニークさも。
DS3 Racingほど注目を浴びなかったのが、後期モデルで限定販売されたDS3 Performanceです。DS3 Racingと同等以上のチューニングエンジンが搭載されているだけでなく、トルセン式LSDまで搭載されよりハードチューニングされたパワートレインを有していました。ただ、このモデルの発売前年にWRCから一時撤退していたこともあり「直系チューニング」的要素が薄れてしまったのが残念なところ。
ちなみにこのモデルに搭載されているパワートレインはPEUGEOT 208GTi by PEUGEOT SPORTにも搭載。かつてディーラーで同車を試乗してみましたが、走り味は痛快そのもの。車体が小型で比較的軽いので速さは抜群。話に聞く限り、DS3版は208よりもさらにハードな乗り心地に仕立てられていたそうですから、相当好き者じゃないとダメかもしれません(笑
1台でスポーツとファッションのイメージの両方を体現させるのは他メーカーではあまりない事例ではないでしょうか。それだけ、メーカー側がこのクルマに力を入れていた証拠に思います。
2代目は市場動向を反映して・・・
その後、2019年には新型DS3 CROSSBACKにモデルチェンジを果たします。2代目DS3は初代モデルのモチーフを残しつつSUV感を高めたモデルに変化。SUV主流の市場動向を反映した結果に思いますが、初代DS3と似て非なるものになりました。
DSが主戦場と捉えた中国市場や、競合モデルとの差別化のための選択だったのかもしれませんが、これによりスポーティなイメージはPEUGEOTモデルに集約されることに。もっとも、電動化が叫ばれている今となってはかつてのようなクルマの存在意義すらなくなったのかもしれません。
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