日々進化する車載インフォテインメントにおいて今やスタンダードとなったApple CarPlay。当初は興味本位で使用し始めましたが、iPhoneとのシームレスな連携や車両側スイッチ・スクリーンと統合されたUIが非常に使い勝手がよく、通信機能を最大限活用する点においては、据え置き型のカーナビと比べても遜色のないものになりました。
その中で一番重要な役割がカーナビ機能です。Apple CarPlayデビュー当初はApple謹製マップAppしか利用できませんでしたが、iOS12の登場時にGoogle MapやYahoo!カーナビなどのサードパーティ製Appが使用可能になったことで選択肢が大幅に増加しました。
F39・F60に搭載されているBMW純正ナビは地図表示は綺麗なもののルーティング性能はイマイチで『なぜこの道を案内するんだ?』という場面がけっこうあります。一方、Google Mapのルート検索は非常に優秀。Googleが収集したビッグデータが活用され混雑状況も反映される機能や、Google検索した目的地情報がシームレスにMapの目的地設定にできる点など、使い勝手は日々進歩しています。同様の機能はBMW Appにも備わっていますが、シームレスさというて点ではGoogle Mapに勝るものはありませんでした。
パイオニアが(再び)やる気を出した?
そんな中、パイオニアが2023年9月にリリースしたスマートフォン向けカーナビApp「COCCHi」に大注目。同社からはかつて何度かカーナビAppがリリースされていますが、どれもパッとしないデキで全て提供終了。長らく空白状態が続いていた中で今回リリースされたAppはいきなりApple CarPlayとAndroid Autoに対応という驚きの内容でした。
長らくパッとしなかったパイオニアのスマホ戦略
思い返せば・・・パイオニアのスマートフォン向け戦略はあまりパッとしなかった印象です。遡ること12年前の2011年、NTTドコモと共同開発したドコモドライブネットアプリをリリースします。これはいわゆるカーナビAppなのですが、他のものと大きく異なるのが同時に専用スマートフォンクレイドルを発売したことです。
当時はAndroidスマートフォンにパイオニアの据え置きナビと同等の機能が搭載!と期待が膨らみましたが・・・実際は実に中途半端という印象を抱くものでした。当時のスマートフォンは画面が小さく性能も発展途上。GPSの受信性能もイマイチで、加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵するクレイドルがないと使い物にならないデキでした。
ただ、そのクレイドル自体が対応機種が増えない・新機種では利用できないという残念な仕様。デビュー当時は大々的なプロモーションをしていましたが、次第にカー用品店頭から姿を消していきます。その後、タブレット向けのクレードルも登場しましたが、それも短命に終わりました。
2012年には2DINサイズのディスプレイオーディオも登場。前出のドコモドライブネットアプリの他、iPhoneに対応したカーナビApp(Linkwithカーナビゲーション)をリリースします。新たな時代が到来か?と思いましたが、実態はスマートフォン画面をミラーリングするだけ。見た目はカーナビと一緒なのに、据え置きカーナビに比べて地図画面が見づらいという代物で『これなら・・・普通のカーナビ買った方が良くないか?』と思うデキでした。
結局、iPhone対応カーナビAppは2015年にサービス終了。先に登場したドコモドライブネットはiPhone対応するものの、バージョンアップ時にパイオニア傘下のインクリメントPが開発したMapFan Appとほぼ同じものに差し替わり、結局2021年にサービス終了。それ以降、パイオニア謹製のカーナビAppはリリースされていませんでした。
2010年代のパイオニアといえば、同社の主力である据え置き型カーナビに対しAR技術やヘッドアップディスプレイ、定額制音楽配信サービスなど当時の最新技術をこれでもか!と投下していましたが、どれも長続きしませんでした。せっかく新技術を搭載しても、それをオペレートするソフトウェア側の進化や熟成がほとんどなく、せっかく築いたアドバンテージをすぐにひっくり返すという迷走ぶり。
ハード面に並々ならぬ拘りを見せる姿勢はパイオニアファンとしては毎回ワクワクする内容でしたが、冷静になって思えばハード・ソフト両輪で進化し続けるスマートフォンのほうがよっぽど優れていると気がつくまでにそう時間がかかりませんでした。
それでもハードだけは(細々と)進化していた
一方、得意のハードは継続的にスマートフォン対応の新製品をリリースし続けています。2014年にはパイオニア初のApple CarPlay対応ディスプレイオーディオを発売。2020年には大画面フローティング型のモデルも発売する動きを見せています。また、2018年にはパイオニア独自のスマートフォンリンク機能を持ったドライブレス(=ラジオとスマホ音声再生限定)の1DINヘッドユニットも発売しています。
これらの製品説明を見ても、自社製Appを持たないためナビ機能の紹介はごく僅か。ただ、ナビに対する拘りはひっそりと持ち続けていたようで、R52で現在も愛用しているディスプレイオーディオ(DMH-SF700)は本体側にGPSアンテナ・ジャイロセンサー・車速パルスなど自車位置測位用の機能が備わっています。(※これらのはCarPlay対応App側の仕様に左右され、どのAppでも必ず使用されるわけではないことに留意)
COCCHiへの期待と今さら感
満を持して再登場したパイオニア謹製カーナビAppはどんなもんでしょうか。現在リリースされているCOCCHiの特徴は以下のとおりです。
- スマートフォン単体動作に加え、Apple CarPlay・Android Autoに対応
- VICS情報に加えプローブ情報(SmartLoop)や駐車場満空情報が利用可能
- 据え置き機で培った高いルーティング性能・音声案内を提供
- 見やすい地図表示(パイオニア製据え置きナビとほぼ同等)
- 車両情報を登録することで走行コストなどのレポートを出力
と、こんな感じですが・・・アプローチは以前のAppとそう変わっていません(笑)それでも再びパイオニア謹製のカーナビAppが使えるだけでも個人的には嬉しい限りです。その一方で、パイオニアがもたもたしていた間に競合他社も力をつけてきたことを忘れてはいけません。
Googleという巨人に立ち向かえるか?
まず注目したいのがプローブ情報。パイオニアが車載機から取得した走行データをもとにプローブ渋滞情報配信「スマートループ」を開始したのは2006年のこと。当時はVICSではカバーされない道路の混雑状況がわかるという点で称賛に値するものでしたが、今やビッグデータの活用は当たり前。ご存じのとおり、Googleはスマートフォンの現在地情報を匿名情報として取得しGoogle Mapで活用しています。
スマートループはパイオニア製ナビや一部の国産車ナビから得た情報が分母ですが、GoogleはMapをインストールしたスマートフォンが分母。当たり前ですが後者のほうがプローブ情報を多く持っています。その違いをわかりやすくするために、同じ位置で両者のAppを確認してみました。
これらは平日16時頃に札幌駅前での様子ですが、Google Mapはあちこちが混雑を示している一方、COCCHiはVICS情報(実線表示)の他にスマートループ情報(破線表示)が出ていますが、見た限りそこまで混雑していない様子を示しています。VICS情報のみ表示するYahoo!カーナビはほどんど混雑していない様子を示しています。
このシチュエーションで一番現実に近かったのはGoogle Map。JRと並行するように伸びる北5条通りは混雑気味でした。ただ注目すべき点は、この路線はVICSがカバーする道路であるこということ。Yahoo!カーナビ側はVICS情報のみ表示(わかりやすく順調状態を表示しています)していますが、これを見る限りは『あてにならない』と感じてしまいます。最近は各社のプローブ情報とも連携する実証実験が行われているそうですが、あまり恩恵を感じないなぁ。
今回はたまたまGoogle Mapのほうが正確さを感じましたが、情報の粗さも感じる場面もあります。全く混んでいなくても混雑表示がされることも多く、情報の精度という点ではスマートループのほうが優れている印象があります。それぞれに良さとイマイチさが両立しているので、悩ましい限りです。この点は是非ともパイオニアに頑張って欲しいと思うところですが、今さら勝てるのでしょうか・・・?
ナビ本来の機能としてはやっぱり老舗なだけある
では、COCCHiが競合より優れている点はどこか。それは何と言ってもナビ本来の機能である地図表示や音声案内の質が高いことではないでしょうか。地図の見やすさという点では、Apple Mapは論外、Google MapやYahoo!カーナビも今ひとつに思います。一方、長年据え置きナビを作り続けているパイオニアのCOCCHiの地図はどんなシチュエーションであっても視認性に優れています。
どんな環境であっても見やすい地図画面
これはハード側の問題ですが、F39・F60のCarPlay画面のコントラストが低くGoogle Mapだと道路表示が見づらいという致命的な欠点があります。これはApple Mapも同様に見づらく使い物になりません。Yahoo!カーナビはこれらより道路表示が視認しやすいのですが、わざわざ各交差点の住所表記をすべて出してくれるという珍仕様で文字で地図が埋め尽くされるという本末転倒ぶり。その点、COCCHiの地図表示は『さすが、わかってるねぇ〜』と称賛したくなります。
地味だけどけっこう重要な音声案内性能
音声案内についても、COCCHiは据え置き機時代に培った効果的な案内手法が引き継がれています。単純に右左折を案内するのではなく、特徴を交えて発声する点は他のAppでは実現していませんし、発声タイミングの絶妙さも健在。例えば右折案内時であれば『この信号を右です』の『す』のタイミングがちょうど交差点に差し掛かり右折を開始するタイミングに合わせるなど、使う側にとってストレスにならない音声案内を実現している点は未だにアドバンテージに思います。
一方で残念なのが、人工音声の不自然さ。これは同社の据え置き機でも散々酷評されたところ。かつては聞き取りやすい収録音声が強みだったのですが、2016年頃から合成音声に切り替わりました。恐らくは道路の新設や改良に合わせてボイスを収録する作業コストを削減したためと思われますが、それから7年経った今でも違和感の残る案内音声なのはちょっとげんなり。現状は音声案内をオフにしています・・・。
まだ未完成だけど改善の見込みあり(だそうです)
それでも、リリース直後のAppとしては完成度が高く、現在はCOCCHiをメインで使用しています。安定度も悪くなく、フリーズや強制終了もほぼ発生していません。ただ、機能的な面ではまだ煮詰め不足な点があります。気になっている点としては、
- CarPlayがオフになっても(Appがバックグラウンドになっても)現在地を取得し続けてしまう
- 残り走行距離に対する走行時間算出がおかしい
- CarPlayスクリーン上の表示情報が少ない
バックグラウンド処理が下手くそな点は早めに改善して欲しいポイント。到着しクルマを降りてもなお現在地取得を続けてしまうため、Appを終了しない限りバッテリーを大幅に消耗させます。他のマップAppはタイミングよくオフになるのですが・・・バグでしょうかね?
それから気になるのが到着予想時刻の算出。上記スクリーンショット上では379kmを7時間弱で走る=時速54kmで案内されていますが、ルート途中には高速道路走行もあるため明らかに遅いのです。この辺はGoogle Mapはけっこう正確。初期バージョンでは到達時間の時速固定が出来たのですが、いつのまにか消えている=改善を図っている可能性があるので、様子見します。
最後は、現状のCarPlayスクリーン側の表示が限られている点。iPhone単体で動作するときは据え置き機と同等のターンリストや交差点イラスト表示が機能するのですが、CarPlay画面には表示できません。これについては、公式のFAQページに近日対応予定が謳われていますので気長に待ちます。
他にも現状で搭載されていない機能も鋭意開発しているようですし、同社のAIプラットフォームを活用したサービス提供もプレスリリースに謳っているところや、Appレビューやユーザーボイスに対して小まめにリアクションしているところを見ると、今回は相当やる気があるように感じます。
あの素晴らしいパイオニアよ再び帰って来てくれ!
と、現時点ではまだまだ発展途上と思いますが、今後に期待しています。なお、ウリにしている機能をすべて利用するためには、月額350円のサブスクリプション登録が必要になります。CarPlayはサブスク限定機能ですので、私は早速登録しました。据え置き機以上の機能や性能を有するようになるのであれば、それ以上払ってもいいかな?と思っています。
一時は潰れるのでは・・・と心配になったパイオニアが再び輝くことを期待して!頑張れパイオニア!
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